頭が良くなっても、わたしは、幸せになったとは思わない。

自分が自分でなくなったような違和感が、気持ちを暗くさせる。

薬漬けの生活から、開放されたものの、マトモな人生を送っているとは言いがたいし。

関係した男の痕跡を体のいたるところに見つけるにつけ、わたしは、情けなくなる。

ただ、男に抱かれているときは、生きている実感がある。

そう、ドラッグをやり始めたとき、まさにそんな気がしていた。

だとすれば、クスリがセックスに代替しただけのことではないのか?

親友はリストカットで生を実感したという。

さすがに、わたしには自傷行為はできなかったけれど。

最近、あたまのなかに周期表が浮かぶ。

メンデレーエフというひとが作ったというあれだ。

およそ、わたしには縁のないものなのだけれど、新しい人格が持ってきたデータに入っていたのだろう。

それから「アマチュア無線」というわけのわからないもの。

もう、こういった、ゴミみたいな知識があたしの頭のなかに、とっちらかっている。

化学、物理、数学、電気…なんなのよ、この混乱は?

「一級アマチュア無線技士」という資格をあたしは取るらしい。
そのためにあたしは、したくもない「勉強」をさせられる。

あたしはニトリで机を買い、本棚を買い、部屋を整えていった。
いったいこれから何をさせられるのか?

何者かが、わたしを動かしている。

わたしは、エージェントに雇用され、男と寝て日銭を稼ぎながら、受験勉強をするおかしな生活に没頭しようとしていた。

「わたしはナオコ…なおぼんと呼ばれた女」
耳鳴りのように、しかしはっきりとわたしに聞こえた。
何度も…