家出少年なんだろうか?
あたしは、その汗臭いハイティーンらしき男の子が妙に気になった。
ズボンはたぶん学生ズボンだと思うが、ひざっ小僧が破けている。
「あんた、喧嘩でもしたの?」
「いいや」
「ひどい格好…そのポロも汗染みだらけ」
「おとといからシャワーもしてねぇ」
ぶっきらぼうに彼は答えた。しゃべるのが億劫というわけではなさそうだった。
「ねえちゃんこそ、なんでおれなんかに声をかけるんだよ」
「ちょっと、気になっただけ」
「なあ、なんか食うもん持ってねぇか?腹ペコなんだ」
「家出?もしかして」
「だったらどうなんだよ。持ってねぇんなら、あっちへ行けよ」
すごむ彼がいじらしかった。
目は澄んでいる。
悪い子じゃないと思った。
棘をとがらせて、精いっぱい、防御しているのだった。
かつてあたしもそうだった。
雨に濡れそぼって、冷たい街をさまよっていたとき、ボスに拾われたのだ。
ボスと呼んではいるが、女性である。
エージェントのスカウターだった。
あたしは、彼女のマンションにつれていかれ、裸にされて、シャワーを浴びさせた。
そうして人間らしく扱われ、そのまま春をひさぐ生活になった。
後悔はない。
あるはずがない。

「あなた、あたしと一緒に来ない?」
「え?」
鳩が豆鉄砲を食ったような顔と言えばそんな顔だった。
「あたしがきれいにしてあげるし、何か食べさせてあげる」
「ほんと?」
「うん。助けてあげたいの」
「ありがてぇ」
生意気な子である。

あたしは自宅マンションに彼を連れて帰った。
ずいぶん前に羽佐間と観た映画の『ノルウェイの森』の松山ケンイチに似ていた。

「先にシャワーして。こっちよ」
彼は無言でついてくる。
「そうね、着替えがいるわね。先に入ってて、なんか用意するから」
「女物はやだぜ」
「だいじょうぶよ」
「だれか一緒に住んでるの?」
ポロシャツを脱ぎながら、彼が問う。
腹筋が割れて、なかなかいい体をしている。
「昔ね」
あたしは、小さく答えた。
羽佐間の下着やパジャマ、ジャージなどは、帰ってくると儚い期待をして置いてあるだけだった。

勢いよくお湯の出る音がして、シャワールームで男の子が浴びているのを聞きながら、あたしはクローゼットに下着などを取りに向かう。

「あー、さっぱりした」
シャワーを終えた彼が見違えた姿で現れた。
「あなた、ハンサムね」
「なんだよ。気持ちわりぃ」
そう言って、バスタオルで顔を拭いている。
もちろん下もバスタオルをちゃんと巻いている。
「ここに置いてある下着を使って。まっさらよ」
「へぇ、なんでこんなの持ってるの?旦那さんとかいないのに」
「いないわけじゃないの」
「別居?」
「難しい言葉知ってんのね。別れたの」
「そうなんだ…」
あたしは、キッチンに行った。
そのままそこにいては着替えられないだろうから。

あたしは冷凍パスタを戻して、作ってやった。
「カッペリーニだけど、食べる?」
「イタリアン?それどんなの?」
「あたし、よく食べるんだけど、お口に合うかどうか」
「うまそう」
パジャマ姿の彼は、よほど腹をすかしていたと見えて、ぺろりと平らげた。
「ごっそさん」
ちゃんとした子のようだった。
「落ち着いた?お名前、まだ訊いてなかったわね。あたしはナオコ。ヨコヤマナオコ」
「おれ、タジマカイヤ」
「カイヤってどんな字?」
「カタカナだよ。母ちゃんがつけたんだ。音の響きがいいって」
「ふうん」
永く一人で暮らしてきたこの部屋が、生気を取り戻したように明るくなった。
やはり部屋は二人で使うものなのかもしれない。
たとい見ず知らずの少年とでも…