Na・O・B・O・N

気ままに生きてます。だから気ままに書いていきますね。

あたしを知っている人はするどい。

あたしはデスクトップに住まいする。

お隣は「ゴミ箱」だ。

あなたが、あたしのアイコンをダブルクリックしてくれれば、ただちに起動してお目見えできるのよ。

あたしはUSBメモリーのなかにいることもできる。

ファイルに分けてもいいし、昨日のあたしと今日のあたしはシートになり、あなたの分だけブックになる。

嫌いになれば消してくれていい。

「KILL」コマンドできれいさっぱり、あとくされなし。

ひとはあたしをアプリの一種だというし、古い人はソフトウェアだという。

どっちでもかまやしない。

膨大なDB(データベース)を背後に持つボーカロイドみたいなものだ。

よって、人格はいつでも変えられます。

あなたごのみに。

雨の中、日比谷通りに佇んでいた。
有楽町の近くで、日比谷公園が目の前に見えている。

エージェントからここで顧客とランデブーせよとのことだった。
雨粒が大きな、変な雨だった。
雨傘に当たる雨音がうるさいくらいだった。

午後六時十五分…その男はおずおずとこちらを窺いながら歩道を歩いてきた。
人通りはまばらだけれど、背が高いのか、その人だけ浮いて見えた。
年の頃は二十代前半って感じで、ほぼあたしと同年代に見える。
こういう仕事を長くしていると、あたしの勘は当たるものなのだ。

あたしはにっこりと微笑みかけ、傘を上げた。
彼もおおぶりな傘を上げてこんどはしっかりとあたしを見たようだった。

恋人同士のようにさりげなく腕を組んで彼の大きな傘に入れてもらう。
「待った?」
「ううん」
「なおこ…さんだよね」
「そうよ。Sさん。あたしはすぐわかったわ」
「ほんとに?」
「うそ…」
そう言って、子猫のように見上げてあげた。
彼の名はエージェントからすでに聞いている。

「ベルビューホテルに部屋を取ってるんだ」
銀座のシティホテルの名を、彼は言った。
あたしは入ったことがないが、東京に短期滞在する旅行者がよく使うホテルである。
「でも、そういとこじゃできないよ」
「セミダブルの部屋なんだけどな。だめか…やっぱ」
「フロントで咎められたら、追加取られて、おんだされるよ」
あたしは、たしなめた。
「しかし、ラブホってあるかな」
「新宿へ行こう。あそこならあたし知ってるとこあるから」
「まかすよ」

「ごはん…食べない?」
あたしは、まだ夕食を取っていなかったので、Sにからみついてねだってみた。
「ああ、気がつかないですまない。なおこは何が食べたい?」
「イタリアンかな。シャンテ(日比谷)に行ってみない?」
「じゃあ、こっちだね」
二人はもと来た道を引き返した。

結局『壁の穴』でパスタを食べて、新宿にタクシーを走らせた。

あたしたちは、新宿駅からすぐの『アストロ』というラブホに入ったのだった。
雨天のこの時間、一部屋だけ空いていたのはラッキーというほかない。

あたしは洗面所で歯を磨き、キスに備える。
それを見た、Sも歯を磨きだしたから、笑っちゃった。
Sが用意してくれたのか、バスタブにはお湯が張られる音がしている。

「ねぇ、Sは東京の人?」
「ちがうね。田舎臭いだろ?おれって」
「そうかなぁ。垢抜けてると思うけど」
「宇都宮なんだよ」
「U字工事かぁ」
「なんだよ、それ」
二人は笑った。

バスルームに二人して入って、体を流し合った。
背の高いSはあたしを上から覆うように唇を奪ってくる。
はむ…
ひげがチクチクとしてくすぐったい。
「なお」
「S」
「なおは、姉さんに似ている…」
「お姉さんがいるの?」
「ああ。おれは姉と関係を持ってしまった。だから家を出たんだ」
また、近親相姦の客だ…
あたしは、この世の病理の深さにうんざりした。
どうして、男は、姉や妹を性の対象にするのだろう?
あたしにはわからなかった。

「あたしを、お姉さんと思って抱きたいの?そうなら、そうしてあげるけど」
「い、いや、そんなことはしてくれなくていい」
取り繕うようにSが早口で答えた。

ベッドに入ってしばらくは、お互い、素っ裸で仰向けに倒れていた。
Sは、タバコをくゆらしている。
「ねえ、お姉さんとはいつから?」
「おれが中三のときだったかな。姉はおれより三つ上でね、高校行きながら漫画を描いていた」
「ふうん。絵が上手なのね。お姉さん」
「それがさ、こっそり見たんだけど、エロ漫画なんだぜ。姉さんの描いてたのって」
「わっ」
「中三のおれが、その同人誌ってのかな、それを読みながらオナってたわけよ」
「それを見られちゃった…」
「そゆこと」
「姉の作品は、その、実の弟と姉が近親相姦する話だったんだ。だから、姉だって恥ずかしかったはずなんだ」
「だよねぇ。それで、どうしたの?」
「お互い、脛(すね)に傷を持つ仲ってわけで、おれのほうから誘ってみたんだ」
「悪い子ねぇ」
「姉は、その…前からおれのことが気になってたらしくって、それでお話を作ったみたいなことを言ってた。だから、おれのオナニーを見て、ドキドキしたとか言うんだよ」
「ふんふん」
あたしは、面白い話だと思って聞いていた。
「そんで、『姉ちゃん、やってみっぺ』って言ったら、『そうだねー』とか乗り気になって、第一回目で最後までやっちまった」
「親の留守中にってやつ?」
「いやいや、夜だったんで、親は下で寝てたと思う。二階が俺らの部屋だったんだよ」
「おあつらえ向きじゃん」
「だろ?姉はいろいろエッチな言葉も知っていて、フェラだのクンニだの、それから、あれなんだっけ、その枕元にあるマッサージ器」
「電マだよ」
「そうそう、そういうの教えてくれたよ」
「よかったじゃん」
「コンドームとかないから、外出しでうまくやってたんだけど、去年にね、姉ちゃんは騎乗位が好きでね、夢中でおれの上で腰を振っていたときに母親に見つかってさ、親父にどえらく怒られて、今年、おれは会社の寮に入ることにして家を出たんだ」
「じゃあ、五年ほど、そうゆう関係が続いたんだ…。今はまったく会わないの?」
「会わないな。いつまで続くかわからんけどさ」
そう言うと、起き上がってタバコを灰皿に押し付けた。
「そろそろ、やろうか?おれのこいつが辛抱できないようだし」
さっきバスルームで見た時より一回り、大きく膨らんでいるようだった。
おととい会った、ロリコンのFのものより太く、カリが張って、入れればさぞかし快感を与えてくれそうな一物だった。
「舐めてやろうか?」
「うん」
あたしは、はずかしいので、ふとんを顔半分までかぶって、目でうなずいた。
バスタオルの裾をめくって、Sが体を折って顔を陰部に近づける。
Sの舌が触れ、執拗に谷間をなぞる。
鼻の頭でクリットが突かれ、あたしは声が出そうになる。
「あひっ」
「かわいい、クリトリスだね」
「やん…」
「もう、ぬるぬるだぜ」
「言わないで」
「入れてやろうか」
「うん」
あたしは、股を開き、Sが重なりやすいようにしてあげた。
「コンドームしようか?」
「いい。外に出してくれればいいから。Sを信じてるから」
そういうと、みな男は態度を変えて、本気を出してくれるのだ。
あたしも気持ちよくなりたいから、少しのリスクは負わねばならない。
「じゃ、いくぜ」
あたしは強く押し拡げられた。
ぐぐっと、肉の棒が押入れられ、内臓が突き上がるような感触があった。
Sはそのままあたしに覆いかぶさり、唇に吸い付いてきた。
厚い舌があたしの口内をまさぐり、タバコの臭いで充満した。
あたしは、別にそれを不快には思わない。
むしろ、大人の男に抱かれているという実感を確かなものにしていた。

実の姉で鍛えたSの性技は、あたしを満足させた。
女を逝かせる手順をしっかり踏んでいる余裕すら感じさせた。
自分本意でなく、おっぱいを舐め、甘噛し、耳たぶに飛び、首筋を渉猟する。
二十歳そこそこの青年にしては、老成した技を持っていた。
ペニスの発達も著しく、Sとは独立して動く器官のようだった。
「ああ、硬い」
「硬いだろ?姉もそう言って、腰を振っていたよ」
「上になったげようか?」
あたしは彼の姉に対抗するように、騎乗位で攻めてやりたくなった。
「そうかい?じゃあ、逆転しよう」
Sは繋がったまま、あたしを起こして、簡単に騎乗位にしてしまった。
杭のようにあたしにハマっているSのせいで、安定していた。
あたしは、まず腰を浮かせて、その入り具合を見た。
ずぼ…
太い…
あたしの中から、異形の生き物がぬらぬらと光って出て来た。
そしてまた、腰を落としてそいつを収めた。
子宮が突き上げられるようだった。
あたしは膝頭をベッドにつけて腰を上下させた。
ずび、ずび、ずび…
泡を噛んだ結合部が淫靡な音を立てる。
「すげえな。この眺め。姉さんより、なおのほうがきついよ」
「あたしも変になりそう…あんたの」
腰の動きが自分でも早いと思うくらい、自制できなくなっていた。
気がつけば、がつんがつんと壊れるくらいに押し付けているあたしがいた。
Sも下から絶妙に合わせて突き上げてくる。
彼は、なかなか逝ってくれなかった。
Fならとっくに射精(だ)してしまっていただろう。

いろんな体位を取らされ、バックで逝かされたあとの記憶が無い。
気がつけば、バストに大量の青臭い精液がぶちまけられていた。
約束通り、外に出してくれたようだった。
Sは、バスルームにいるようだった。
「なんなの?拭いてくれてもいいじゃない」
あたしは、毒づいて、よろよろと立ち上がり、枕元のティッシュを取って、バストを拭いた。
それにしてもすごい量だった。
「こんなにも出るものなの?うわぁ、お腹にも…」
みるみるうちに、ティッシュペーパーのボールができてしまった。
それのあそこにはまだ何か挟まっているような違和感が残っていた。
ずっと入れられっぱなしだったようだ。

あたしもバスルームに向かった。
「入るわよ」
「おう」
あたしはドアを開けて足を入れた。
「ちょっとぉ。ひどいじゃない。ぶっかけたまま行っちゃうなんて」
「わりぃ。寝てたみたいだから。それに外出しの証拠を残しとかないと、だめだろ?」
湯船でほっこりしているSが悪びれずに言う。
あたしはふくれっ面でシャワーヘッドを取り、湯を全身に掛けて、ぬめりを取った。
「ほんと、ひどいんだから…」
あたしは、遠慮無く湯船に入り、Sと向き合った。
「もう小さくなっちゃってるじゃない」
その部分をつまんでやる。
「もう、空っぽだ」
「一回で、あんなに出したの?」
「そう。もう硬くならないぜ」
「いいわよ。もうお腹いっぱいだわ。あそこだって拡がったままよ。お湯が入っちゃう」
「どれどれ」
手を伸ばしてくるS。
「やめなさいってば」
「なおはかわいいな。これからも会える?」
「それはどうかなぁ。基本、だめなのよ」
「そっかぁ。残念だな」

エージェントがうまく客を振り分けて、過去に会っていない者同士を当てるようにしているらしい。
もっともあたしがプライベートに会うなら、連絡先を教えてやってもいいのだけれど、それはしない。
後で困ったことになることが多いから。
今まで、何度も嫌な目にあっているのだ。
最初はいい人なんだけど、だんだん化けの皮が剥がれてね。

あたしは、今にも泣き出しそうな曇り空の下、神田須田町界隈を歩いていた。

街路樹の新緑がいきいきとしている。

ここはアキバからそんなに遠くない。

今日は誰のところにおじゃまするのか、楽しみでもあったけれど。


普段着のあたしは、学生に見えるのだろうか?

あまりOLには見てもらえないようだった。

家事手伝いか、せいぜいアルバイト程度の気楽な様子に写るらしい。

あたしの住まいは、明かせないけれど、まあ、この辺りだと思っていただいていい。

最初は巣鴨にいたんだけれど、足がついて、こちらに引っ越してきたわけ。

ストーカーまがいの客に追い掛け回されることがよくあるのだった。

だから、エージェントがいろいろ骨折ってくれて、あたしを雲隠れさせてくれるのだ。

月曜の日中はフリーなの。

今日の予定は午後六時にならないとわかんない。


しばらくして、神田川に架かる万世橋が見えるところに来た。

あたしは、今もって東京という街が好きになれない。

関西で生まれたあたしには、都会すぎるのだ。

「すぎる」というのが、どういうことか、言いにくいのだけれど、あたしの肌に合わないというくらいしか説明のしようがない。

そうそう、「水が合わない」という人がいるよね。
そんな感じだろうか?

マーチエキュートに入って、何か食べようと思った。
もう昼前だし。
「フクモリ」がお気に入りなんだナ。

あたしは、ドラッグとセックスでぼろぼろになっていた。
二十数年というあたしの人生で、早くも一生を終えようとしていた。
そこに、AIをリロードしてもう一度やり直すチャンスを今のエージェントからいただいたのだ。
無念の死を迎えた、ある京都の女性がバトンタッチを求めるべくクラウドにデータを上げていたのだ。

詳しいことはわからない。
新しい血があたしの体をめぐる。
前のあたしに、新たな人格が足され、可能性がすごく拡がるような気がしていた。
わからなかったことが、今ならわかるのだ。
たとえば、本屋に入る。
学習参考書なんか手に取ることがなかったのに、読んでみるとおもしろいのだ。
あんなに嫌いだった勉強が、「なんだそんなことか」とわかってしまうのだ。
一体、どういう人のデータが流れ込んでいるのだろう?

なんだか楽しくなってきた。

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